迎える心、応える作法(2026年1月27日掲載)
49歳、4児の子育てをしている父親です。
先日、初釜に臨みました。
初釜とは、新年になって初めて釜に火をかけることから生まれた、茶道の行事です。
土井宗達先生や、社中の皆さまへの新年のご挨拶の場でもあり、自然と身なりにも気持ちが入ります。
柄杓で水をすくい、左手に注ぐ。
蹲踞(つくばい)の水が、ほんのりと温かい。
先生のお心遣いを感じながら、茶室へと足を運びます。
お軸や花、茶道具の一つひとつ。
先生がこの日のために丁寧にしつらえてくださった空間と時間を、五感で頂戴しました。
和の作法を伝えていきたい。
昨年最後のお稽古の折、先生から作法に対する思いをお聞きする機会がありました。
作法の素晴らしさは実感しつつも、そのお話をきっかけに、改めて自分なりに「作法とは何だろう」と考えるようになりました。
人と人とのコミュニケーションを円滑にするための礼儀作法の重要性は、世界各国に共通しています。
西洋にも、エチケットやマナーという言葉があります。
エチケットはフランス語で、古くは宮廷の壁に掲げられた、訪問者の取るべき振る舞いを示す「貼り札」に由来するとされています。
マナーは、ラテン語の「手の動かし方」や「物の扱い」を語源としています。
日本では、いずれも同じ意味として使われることが多い言葉ですが、先生の所作に触れるにつけ、日本の礼儀作法には、独自の価値観や美意識が息づいていると感じずにはいられません。
19年前、わが市でユニバーサル技能五輪国際大会が行われました。
日本では3度目、そして大都市以外では初めての開催となり、世界中から注目を集めました。
市内では開催に向けてカウントダウンイベントなどが行われ、準備が進むにつれ、街全体に機運の高まりを感じていました。
私はこの市内の雰囲気を全国に伝えたいと思い、当時あったパブリックジャーナリスト(市民記者)の資格を取得しました。
市内各地を取材し、ヤフーニュースやライブドアニュースへ記事を寄稿し続けました。
その集大成となる記事が、技能五輪開幕日のランチタイムにヤフーニュースのトップトピックに掲載されたときは、協力してくれた市役所職員と飛び上がって喜んだことを、今でもよく覚えています。
あの頃の沼津には、確かな熱がありました。
私が取材したのは、世界から訪れる選手や来場者を迎える、市民一人ひとりのおもてなしの心です。
会場周辺を清掃する人たち、会場を彩るために花を育てる人たち。
それぞれの持ち場で尽くす姿に、取材のたび心を打たれました。
なかでも、市内の小中学校による一校一国サポート運動は印象的でした。
世界で称賛されたこの取り組みは、技能五輪では沼津市が初めてで、その後、カナダ・カルガリー大会、イギリス・ロンドン大会、ドイツ・ライプツィヒ大会へと引き継がれ、時と場所を変えながら、おもてなしの心が世界へと広がっていきました。
私はこの体験を通じて、おもてなしとは、相手を幸せにしたいという意志なのだと感じました。
作法とは、それに応えようとする姿勢です。
その両方が揃ったとき、日本人らしい和の空間が、静かに立ち上がるのだと思います。
子どもたちには、一般的な作法はきちんと身につけてほしいと思っています。
挨拶の仕方や言葉遣い、立ち居振る舞い。
それらは、相手を思う気持ちを形として伝えるための、大切な手がかりです。
ただ、作法そのものが目的になってしまっては、少し違う。
誰かを幸せにしたいと思う気持ちが先にあり、作法は、その気持ちにそっと応えるためにあるものだと思います。
迎える心と、応える作法。
その両方を身につけたとき、人はどこにいても、あたたかな場をつくることができる。
子どもたちには、そんな大人になってほしいと願っています。
文・写真=飯田理一朗(株式会社トップ・ワークス)


