受け継がれるフォルム(2024年1月16日掲載)
47歳、4児の子育てをしている父親です。
常日頃子供達には、身の周りにある美しいフォルムを感じ取り、自分のものにして生きて行ってほしいと感じています。
年末年始は、子供たちを連れて美術館や寺社仏閣を巡りました。
特に美しかったのは、三ノ丸尚蔵館で見た天皇陛下の婚礼衣装、ルーブル彫刻美術館で見たサモトラケのニケとミロのヴィーナスでしょうか。
天皇陛下の婚礼衣装は、日本の伝統技術が幾重にも施された最高傑作と言えるもので、生糸の輝きと滑らかさ、衣装の細やかな刺繍や調度品の繊細なデザイン、全てが素晴らしかったです。
一方、本物の作品を直接型取りして製作されたサモトラケのニケとミロのヴィーナスは、世界美術史上の最高傑作だけあって、見とれてしまう造形美でした。
黄金比といわれる美しいフォルム。
子供達と作品の周りを歩きながら眺めたあの時間は、家族にとってかけがえのない幸せなひとときでした。
この経験は、フランスの社会学者ピエール・ブルデュー著「ディスタンクシオン」を思い出させます。
この本は、親の趣味や習慣がどれだけ子供に影響を与えるかということをデータに基づいて書かれている研究書です。
本を読み進めつつ、自分の人生を振り返り、私が身につけている習慣や考え方は、祖父母や両親の影響を大きく受けていることを実感しました。
三年ほど前、本を読み終えて両親と囲んだ食卓は、終始私の質問攻めでした。
なぜ美術館や寺社仏閣を連れて行ってくれたのか?
なぜ職場に連れて行ってくれたり、仕事を手伝わせたりしたのか?
ワイワイ、ガヤガヤ。
子供たちと共に両親の話に耳を傾けた夕食は、心に残るものになりました。
「ディスタンクシオン」に書かれていた中で、興味深かったのは美術館へ行くという習慣が子供に与える影響でした。
最初は興味を示さない子供たちも、回を重ねるごとに、親の興味を理解し始め、美術品への関心を深めていくそうです。
そして、次第に多種多様な美術品の中に違いを見つけるようになるそうです。
西田幾多郎著「善の研究」の一節にありますが、美とはそれぞれが最高を求めた姿や状態で、いわば善と同義です。
美術館へ行き、様々な美に触れることは、自然と様々な善の違いを見分け、受け入れることにつながるようになるのかもしれない。
この習慣は多文化への理解、多様性を重んじる現代社会において、大切な習慣になるのかもしれない。
そのように感じました。
自然美、機能美、様式美。
これからも様々な美しさを、子供たちには感受していってほしいと思っています。
以前、養老孟司さんは「親が子供に伝えられるのは形だけである」と述べていました。
彼は、「親が子供を叱っても、子供は叱られた理由を完全には理解できない。
子供はただ、特定の行動をとった時に叱られるという形を覚えるに過ぎない。
この形を何度も繰り返し経験することで、徐々に形が型になり、それが自然と身についていく。
そしていつか、子供はなぜ叱られたのか、その型の意味を理解し始める」と語っていました。
私自身も親として、祖父母や両親から聞いた話の意味を多く理解するようになり、養老さんの言葉に深く共感しました。
子供たちには、私や妻を通して、様々な形を見つけてほしい、型を覚えてほしいと感じています。
そして「守破離」。
時代にあった自分の生き方を見つけて、逞しく生きて行ってほしいと感じています。


