一椀のお茶(2024年11月15日掲載)

48歳、4児の子育てをしている父親です。

常日頃子供達には、目に見える美しさだけでなく、心で感じる美しさにも触れ、感動する心を持ってほしいと願っています。


先日、沼津御用邸で行われた沼津市茶道連盟秋季茶会にて、私は表千家の土井宗達先生のもと、翠松亭でのお点前を披露させていただきました。

初めての人前での茶席とあって緊張し、至らない点も多々あったかと思いますが、ご来席いただいたお客様には心から感謝の気持ちでいっぱいです。


当日を迎えるにあたり、先生が準備に心を尽くされる姿を間近で見てきました。

お客様に最良のひとときを提供したいと、一つひとつの茶道具を選び抜き、軸を掛け、花を生ける。

私もその思いに応えたくなり、前夜、高嶋酒造の富士山伏流水を汲みに行きました。


「利休は茶会を開く前に何度も露地を歩き、着物にかかりそうな葉や枝を落としたのですよ。」

先生が、かつてお稽古の際に話された言葉を思い出し、お客様が来るまでの許す限りの時間、前日の荒天で荒れた露地の掃除をし、庭木に積もった松葉を取り除きました。


お茶会に臨むにあたり、自分なりの心構えを得ようと、お茶に関する古典などの本も読み漁りました。

その中で特に心に響いたのが、裏千家前家元の千玄室さんが若き日に書かれたエッセイでした。


戦時中、千さんは特攻隊に任命され、死を目前にした仲間たちのために最後の茶会を開いたことで知られています。

「お茶は、手前が上手とか下手とか、道具や茶室がそろっていなければならないというような、虚栄や見栄でするものではありません。

自分が点てているその一椀のお茶を、いかに尊く美味しく差し上げるということに、どれだけ相手のかたに対する思いやりが入っているか、という実と心とが一体にならなければいけません。」

千さんの言葉は、極限の状況でお茶を点てた経験に裏打ちされているだけに、重みが感じられます。


「周りの人がサポートするから、目の前のお客様に、美味しいお茶を点てることに集中しなさい。」

社中の先輩から頂いたこの言葉を胸に、私は襖を開け、お辞儀をし、静かに席に入りました。


お点前が終わり、次の席のお客様を迎えるために毛氈を掃除していたところ、あるお客様が話しかけてくださいました。

お点前中に亭主の土井先生がお点前をする私のことをお客様にお話下さったので、そのことに触れつつ、最後に笑顔で「素晴らしい席でした。」と仰ってくださいました。

その瞬間、心に大きな喜びが広がり、この日を忘れることはないだろうと感じました。

先生のおかげで得た感動とともに、深い感謝の気持ちがこみ上げました。


お茶の古典『南方録』には、茶の湯で大切なものに「三炭三露」があると説かれています。

朝、昼、夜の三度炭を置くことと、三度露地に水を打つことで、茶席に心地よい空気と潤いが生まれる。

さらに「露」という字には、心の露、雨露の露、露地の露が含まれ、深い意味があるとも記されています。

お茶会前日の大雨も、落ち葉を洗い流し、庭木の緑を一層引き立たせてくれました。

この雨は、まさに恵みの雨だったと感じます。


しかし、誰かにとっての恵みの雨も、別の誰かには悲しい雨となることもあります。

私がⅭM撮影でお世話になっている愛鷹教会水神社は、この大雨で甚大な被害を受けたと聞きました。

増水により土砂災害が発生し、本堂や食堂などが半壊。

現在、境内は危険のため立ち入り禁止になっているそうです。


愛鷹教会水神社は沼津の水の象徴でもあり、私たち沼津市民にとって大切な場所です。

心よりお見舞い申し上げ、一日も早い復旧をお祈りいたします。

また、復旧した際には神社に足を運び、賽銭という形で寄付をしたいと考えています。


私自身、未熟で日々学びの連続ですが、子供たちにも私とともに、目に見える美しさだけでなく、その奥にある思いや人々の努力、偉大な存在を感じ取る心を育んでほしいと願っています。

そのような心豊かな日々こそが、人生を彩り、子供たちにもかけがえのないものをもたらしてくれることになると信じています。

美しい景色や出会いに感動する心を持ち続け、子供たちとともにこれからも多くの感動と学びの瞬間を分かち合っていきたいと感じています。

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