沼津御酒印(2025年12月20日掲載)

49歳、4児の子育てをしている父親です。

常日頃、子どもたちには、自分のふるさとに愛着を持ち、誇りと遊び心をもって楽しんでもらいたいと願っています。


「沼津御酒印」は、沼津で造られたお酒、あるいは沼津にゆかりのある銘柄のラベルを、寺社を巡って集める御朱印になぞらえて、そっと手元に集めていく私のささやかな遊びです。

この遊びのきっかけは、2020年前後から、沼津に新たな酒づくりの担い手が次々と生まれたことでした。

もともと沼津には日本酒の蔵がありましたが、近年はクラフトビールのブルワリーや、クラフトジンの蒸留所も加わり、街の酒づくりは一段と多彩になってきました。


クラフトビールでは、沼津クラフト(千本緑町・沼津駅南口を南へ徒歩20分)、リバブリュー(大手町・沼津駅南口を東へ徒歩4分)、ワンドロップ(大手町・仲見世商店街)、マスターズブリューイング沼津駅前醸造所(大手町・沼津駅南口を南へ徒歩3分)。

クラフトジンでは、沼津蒸留所(上土町・狩野川階段堤脇)があります。

また、大手町でレストランを営むアイアイダイニングスは、三島でフェット三島醸造所を手がけています。

こうしたブルワリーや蒸留所から、次々と個性豊かな銘柄が生まれています。

さらにこの流れに呼応するように、沼津クラフト(柿田川ブリューイング)の協力のもと、西間門の坂東製粉がそばの実を使った発泡酒を手がけたり、リバーブックス(下本町・沼津駅南口を南へ徒歩12分)がオリジナルのクラフトビールを販売するなど、酒づくりは街のあちこちへと広がりを見せています。


御酒印集めを始めて、まもなく4年になります。

それぞれのお酒が持つ味わいの魅力もさることながら、私の目を引いてやまないのが、ラベルの美しさです。

この流れの源流には、25年前に沼津港に生まれたベアードビールの存在が大きく影響していると感じています。


先月、新仲見世で行われたイベントで、ベアードさゆりさんから、ベアードビールの歩みやこだわり、そして哲学を伺いました。

ビールのネーミングやラベルに描かれた絵は、クラフトビールに馴染みのない方にも興味を持ってもらい、その奥深さや味わいの豊かさを知っていただくため、丁寧に考え抜かれたものです。

こうした姿勢こそが、近年の沼津の酒づくり文化を支える、確かな根幹になっていると私は感じています。

ちなみに、ベアードビールが飲めるタップルームは、来年1月中旬に上土町、リバーサイドホテルの向かいへ移転予定です。

これまでご紹介したお店とあわせて巡っていただければ、沼津の酒文化をより立体的に楽しんでいただけると思います。


日本の酒文化は、歴史も長く、世界に誇るものがあります。

ただ、民俗学の双璧である柳田国男と渋沢敬三の文献によれば、大衆文化として広がったのは明治中期以降のこと。

それ以前は、江戸の都市部を除けば、年に数回のハレの場でしか酒を口にする機会はありませんでした。

文明開化によって西洋文化が入り、鹿鳴館に象徴される社交の場が生まれたこと。

交通網の発達によって都市と地方の人の往来が増え、大小さまざまな宴の席が設けられるようになったこと。

そうした流れの中で酒宴文化は一般化し、今日に至っています。


とはいえ、ここまで広がりを見せた背景には、日本人独特の民族性もあったように思います。

シャイで内向的とも言われる日本人が、見ず知らずの人と心を通わせるために、お酒が一つの媒介となってきたのでしょう。

世界各地で禁酒令が出された歴史がある一方、日本では大酒を戒める法令はあっても、酒そのものを禁じることはありませんでした。


子どもたちには、日常の中で、自分のふるさとを面白がりながら見つけていく感覚を、大切にしてほしいと願っています。

特別なことではなく、身近な風景や味、時間に目を向けるだけで、暮らしは十分に遊び場になる。

そんなことを感じ取ってくれたらと思います。


最後に、高島酒造(原)では、毎年2月23日の「富士山の日」に、朝搾り純米おりがらみ生原酒が発売されます。

三島大社の宮司によるお祓いを受けた縁起酒でもあり、味わいも爽やかで実に見事で、御酒印もまた素敵な一枚です。


皆さまの食卓に、美味しいお酒と食事、そして会話の花が咲くことを願っております。



文・写真=飯田理一朗(株式会社トップ・ワークス)

流域という文明(2026年4月1日掲載)
海賊と民主主義(2026年3月10日掲載)
ぎゅっと小さく、美しく(2026年3月3日掲載)
ある朝、あの言葉(2026年2月4日掲載)
迎える心、応える作法(2026年1月27日掲載)
沼津御酒印(2025年12月20日掲載)
その人らしさ(2025年11月21日掲載)
我が家の通過儀礼(2025年10月16日掲載)
センスを育む(2025年9月9日掲載)
歌姫と日本人の感性(2025年8月19日掲載)
同じ白、違う青【上・下】(2025年8月6日・7日掲載)
星の王子さまとブルース・リー(2025年6月14日掲載)
野鳥の楽園(2025年5月8日掲載)
バタフライエフェクト【上・下】(2025年4月20日・22日掲載)
2.5人称(2025年3月11日掲載)
期待する幸福、満ちる幸福(2025年2月14日掲載)
祈る力が息づく国、日本(2025年1月21日掲載)
「待つ」という作法(2024年12月24日掲載)
一椀のお茶(2024年11月15日掲載)
心に種をまく(2024年10月17日掲載)
スクラップ&ビルド(2024年9月18日掲載)
DNAの旅(2024年8月25日掲載)
非合理的な楽観(2024年7月19日掲載)
言葉より深い意味を持っているもの(2024年7月6日掲載)
認知症から始める共在関係(2024年5月8日掲載)
連続するハレと健全なケ(2024年4月3日掲載)
「愛」は「知」の極点(2024年3月8日掲載)
正解は過去、別解は未来(2024年2月16日掲載)
受け継がれるフォルム(2024年1月16日掲載)
心で記憶する(2023年12月12日掲載)
日本人の情(2023年11月8日掲載)
宇宙船と脳内物質オキシトシン(2023年10月21日掲載)
地域の遺伝子を磨く(2023年9月20日掲載)
120年という時間(2023年8月20日掲載)
30年で日本から失われたもの(2023年7月22日掲載)
金魚葉椿と「なる」文化(2023年6月24日掲載)
帯笑園植松家当主 植松靖博さんを偲んで(2023年5月25日掲載)
「問題作」が「傑作」になるまで(2023年5月10日掲載)
デジタルとアナログの間を生きる(2023年4月16日掲載)
伝えることができた3つのこと(2023年3月4日掲載)
邦楽はよかったよ(2023年2月11日掲載)
未来の一手(2023年1月14日掲載)
国語コンプレックス(2022年12月21日掲載)
言葉のベクトル(2022年11月11日掲載)
公園のルール看板(2022年10月21日掲載)
時間と記憶(2022年9月30日掲載)
70点のテスト(2022年7月1日掲載)
街に本屋がある風景(2022年5月25日掲載)
この戦争について子どもたちと考える(2022年4月23日掲載)
子育て、正しさ、民主主義(2022年1月27日掲載)
子育て中の私が杉原千畝に感じる事(2021年7月2日掲載)

PAGETOP