バタフライエフェクト【上・下】(2025年4月20日・22日掲載)
48歳、4児の子育てをしている父親です。
日頃から子どもたちには、自分の考えや思いを、自分の身の丈に合った行動として表現できる人間に育ってほしいと願いながら接しています。
先月、東京外国語大学の留学生が我が家にホームステイしました。
今年は事情も重なり、中国から2名、カザフスタンから2名、計4名の女子学生を2晩お預かりすることに。
普段から妻や私の両親を招き、10人で食事を囲むこともある我が家。
「なんとかなるだろう」と安請け合いしたものの、文化も生活習慣も異なる4人との3日間は、滞りなく過ごしてもらうことに全力を尽くす日々となりました。
事前に届いた情報には、カザフスタンからのアジャルさんとザリナさんが「豚肉NG」とありました。
おそらくイスラム教徒だろうと思い、食文化について調べてみると、“ハラール”という認証の存在を知りました。
豚肉はもちろん、牛や鶏であっても処理方法によっては食べられない場合があるそうです。
ただ、信仰のスタイルも人それぞれ。
厳格な人もいれば、柔軟に対応する人もいることを知り、一層注意を払うようにしました。
調べを進めるうちに、「ウロコのある魚なら大丈夫」という情報を見つけたため、
魚料理を中心に献立を組み立てることに決めました。
ちなみに、世界の料理と日本の料理の決定的な違い、ご存じでしょうか?
それは「料理に含まれる水分量」だそうです。
なるほどと思い、自分の料理手順を思い返すと、たしかに最初に鍋に水を張って湯を沸かすことが多いと気づきました。
美味しい水が当たり前にある日本は、本当に恵まれた国なのだと、改めて実感しました。
そんな思いから、今回の献立は“水の恵み”を生かしたメニューにしました。
初日の夕食は「手巻き寿司」、翌朝は定番の「ご飯と味噌汁」、2日目の夕食は「ぶりしゃぶ」、最終日の朝食には、出汁の染みた「おじや」を用意しました。
長興寺まで留学生を迎えに行くと、まず中国から来たリ・ランセさんとヨ・テイさんが明るく挨拶してくれました。
一口に「中国」と言っても、その広さは想像以上。
地域によって気候も文化もまるで違います。
リ・ランセさんは内モンゴル自治区の出身、ヨ・テイさんは四川省からとのこと。
少し遅れてアジャルさんとザリナさんも到着し、4人そろって我が家へと向かいました。
仕事帰りに魚屋へ寄って食材を受け取り、その足で彼女たちを迎えに行ったため、準備の時間はほとんど取れず。
慌ただしく夕食の支度をする間、4人には子どもたちと一緒に遊んでもらいました。
初対面とは思えないほど、子どもたちに優しく、盛り上げ上手な4人。
本当に助かりました。
それぞれが持参してくれたお土産も、個性豊かで温かいものでした。
ヨ・テイさんは、出身地ならではのパンダグッズ。
我が家の玄関では、彼女がくれた可愛らしい8体のパンダフィギュアが、今も来客を出迎えてくれています。
そして、今回初めて知ったのですが、カザフスタンはチョコレートが名産とのこと。
いただいたチョコレートは風味豊かで、とても美味しくいただきました。
食事が始まってまもなく、アジャルさんから「今はラマダン中なんです」と教えてもらいました。
日没までの断食期間中だと知り、思わずハッとしました。
「ザリナさんもラマダン中なの?」と尋ねると、「まだ信仰するか決めていないんです」とのことでした。
このやり取りをきっかけに、子どもたちにも話すことができました。
「ラマダンというのは、イスラム教の大切な習慣で、太陽が出ている間は飲食を控えるんだよ」
「イスラム教の国に住んでいても、信仰するかどうかは自分で選ぶことができるんだ」
「だから信仰を迷っている人でも、将来を考えて豚肉を控えている場合もあるんだよ」と。
宗教や文化の違いを押しつけることなく、自然な会話の中で子どもたちに伝える機会を得られたことが、
何よりありがたく感じられました。
食後の雑談の中で、アジャルさんからこんな質問を受けました。
「どうして私たちを受け入れてくれたのですか?」
そこで、28年前のヨーロッパ旅の思い出を話しました。
当時はまだユーロが導入されておらず、訪れる国ごとに通貨を換金する必要がありました。
クレジットカードも今のように気軽に使える時代ではなく、現金を持ち合わせていなかった私は、旅の終盤、イタリアからスイスへ向かう電車の改札で止められてしまいました。
大きなバックパックには追加料金がかかるとは知らず、すでに手持ちのリラも尽きていた私は困り果てていました。
その時、見知らぬイタリア人の紳士が事情を聞き、何のためらいもなく料金を支払って、私を改札の内側へと通してくれたのです。
「その恩を彼に返すことはできないけれど、自分の故郷を訪れた外国の人には、できる限り親切にしようと心に決めたんだよ。」
そう語ると、リ・ランセさんが思わず「世界平和!」と声を上げ、皆で笑いました。
最終日の朝。
彼女たちの朝食を用意したものの、私は仕事の都合で早く家を出なければならず、きちんとお別れの挨拶ができませんでした。
『彼女たちにとって良い旅になったのだろうか。』
そんな思いを抱いていたある日、沼津朝日新聞に、今回のホームステイについて書かれた彼女たちの感想が掲載されているのを見つけました。
その言葉の中に、私たち家族の思いがしっかりと届いていたことを知り、胸が温かくなりました。
Think globally, Act locally.(地球規模で考え、足元で行動する)
今回のホームステイを通じて、私自身もたくさんの学びを得ました。
そしてあらためて、子どもたちには、日々の体験や出会いから自分なりの考えや哲学を育み、それを自分の身の丈で表現し、行動に移せる大人になってほしいと強く思いました。
また、文化や信仰の異なる若者たちと心を通わせたこの時間は、かけがえのない体験となりました。
「違いを尊重し、受け入れる姿勢」は、80年前、見知らぬ人々にビザを発給し命を救った杉原千畝夫妻の精神にも通じるものがあると感じています。
来たる5月5日(月・祝)に「杉原千畝夫妻顕彰碑除幕5周年 慶祝 松の翠邦楽演奏会」が開催されます。
チケットは沼津市民文化センターにて好評発売中。
一般2000円、大学生以下1000円です。(お問合せ:933―2059)
日本の伝統音楽の美しさにふれ、その響きを未来へとつなぐ一歩として、ぜひ足をお運びいただけましたら幸いです。
文・写真=飯田理一朗(株式会社トップ・ワークス)
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