我が家の通過儀礼(2025年10月16日掲載)

49歳、4児の子育てをしている父親です。

今年の夏、末っ子の息子と妻の三人で、二宮尊徳の足跡を辿る旅に出かけました。

この旅は、我が家における〝通過儀礼〟のひとつ。

子どもたちが小学2年生の夏になると、両親と3人で、尊徳の故郷・神奈川県小田原市を訪れることにしています。




旅の始まりは、いつも原小学校にある二宮金次郎像の前から。

子どもたちが時折目にしているはずのこの像も、意識しなければ見過ごしてしまうもの。

まずはその足元に立ち、看板に書かれた金次郎(尊徳)の人となりを親子で音読し、いざ小田原へと向かいます。




到着後、最初に立ち寄るのは報徳二宮神社。神となった尊徳に手を合わせます。

この地を訪れるたび、300年前に実在した一人の人間が、今や神として地元に敬われ、愛されていることに胸を打たれます。

境内の「きんじろうカフェ」では、小田原市民の商魂たくましさに感心しつつ、一服。

ひと息ついたあとは、小田原城へと足を運び、天守閣から市街地を一望します。




その後、小田急線に乗って栢山(かやま)駅へ。

徒歩で尊徳記念館を目指します。

ちなみに、途中で立ち寄る「餃子屋」さんは、次女と旅したときに見つけた店。

モチモチとした皮が特徴の大ぶりな餃子が名物で、以来、我が家では最乗寺への参拝の際にも、この店に立ち寄るのが習慣となりました。




昼食を終えたあとは、うだるような暑さのなかを15分歩いて記念館へ。

子どもの手を引き、「もう少し、あとちょっと」と声をかけながら歩くその時間も、記憶に残る大切な旅路です。




記念館に着くと、まずは恒例の「薪を背負っての記念撮影」。

これは原小の金次郎像と同じポーズ。

今回で、4人の子ども全員が小2の夏にこの姿を撮影したことになります。

感慨深いひとときでした。




この記念館が好きなのは、子ども向けのアニメ解説があり、小さな子でも尊徳の偉業に自然と触れられるところ。

隣接する生家のたたずまいとあいまって、尊徳がどんな環境で育ち、どんな思いで勉強し、やがてどのように行動していったのか。

それが、体感として伝わってきます。

子どもたちにとって、人生の指標を得る貴重な体験となると感じています。




日本の現代社会を構成する二つのイデオロギー、民主主義と資本主義の源流は、日本の風土の中にもともと息づいていたのではないかと思っています。

民主主義の理念は、『和を以て貴しと為す』に。

そして資本主義の精神は、まさに二宮尊徳の『報徳仕法』に見出せると考えています。




尊徳が幼少のころから、実践のなかで体得した『積小為大』。

小さな努力を積み重ねることで、大きな成果へとつなげていくというこの思想を支える四つの柱が、『至誠』(誠実であること)、『勤労』(心身を尽くして働くこと)、『分度』(身の丈に合った暮らしをすること)、そして『推譲』(未来や他者のために譲る心)です。

これはまさに、資本主義の精神の根幹そのものであり、西洋思想における資本主義の成り立ちを分析したマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』とも響き合います。

近代日本経済の父と称される渋沢栄一もまた、著書『論語と算盤』のなかで、西郷隆盛とのやりとりの場面で二宮尊徳の報徳仕法について触れています。

論語という〝徳〟と、算盤という〝経済〟を両立させるその理念は、尊徳からの影響を受けていると感じます。




資本主義というと、経済資本、特に金融資本に目が向きがちですが、本来はそのほかに、社会関係資本や文化資本もあり、いずれも欠かすことのできないものです。

先日、沼津市芸術祭の茶会に参加しました。

それぞれの席で、席主の佇まいや正客とのやりとり、所作のひとつひとつに、長年の研鑽と心の余白を感じました。

日本人として、そして人生をまっとうしていくうえでも、こうした「資本」のあり方こそが、真の豊かさにつながるのだと感じます。



歴史を紐解けば、どの時代の人びとも、行く先の見えない未来に思いを巡らせてきました。

それでもなお、偉人たちは人生を賭して、次の世代へと受け継ぐ考え方を積み重ねてきました。

子どもたちには、資本主義の根幹にある〝勤勉さ〟と〝誠実さ〟の大切さを、忘れずにいてほしいと願っています。

その心こそが、明るい未来を切り拓く力になると信じています。



文・写真=飯田理一朗(株式会社トップ・ワークス)

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