「問題作」が「傑作」になるまで(2023年5月10日掲載)

46歳、4児の子育てをしている父親です。

常日頃子供達には、様々な美しさを知ることで、多様性の溢れる社会の素晴らしさを感じて、人生を楽しんで欲しいと思っています。


先日、東京国立近代美術館で行われた70周年記念展「重要文化財の秘密」を子供達と鑑賞してきました。

明治以降の作品で、重要文化財に指定された作品は68点。

そのうち51点が展示されるという滅多にない機会。

教科書で見る作品ばかりなので、実物の作品を見せてあげたいと思い、2時間東海道線に揺られつつ、ワクワクしながら美術館へ足を運びました。


黒田清輝、横山大観、菱田春草、高村光雲。

錚々たる作品の美しさに、子供達と何度も立ち止まり、無言で楽しみました。

お土産で画集を買いましたが、美術館で見た作品から感じた迫力は、実物でしか感じられないと分かり、一緒に行けてよかったと思いました。


今回の展覧会の副題は、「問題作」が「傑作」になるまで。

その名の通り、展示された作品達が生まれた当初は、それぞれ問題作と呼ばれていました。

当時としては斬新なテーマ、タッチ、色彩感覚。

多くの批判を浴びてきました。

しかし、この100年で「重要文化財」という最大の賛辞によって評価が覆りました。


美しさというのは、多種多様です。

主観的な評価でありながら、多くの人達とも共感できる客観的な評価も同居します。

私の好きな逸話として、「ゴッホの手紙」の著者である批評家小林秀雄が、自身の所有する『鳥のいる麦畑』の複製の方が、オランダのクレラ・ミューラー美術館で見た原画より美しいと評価した話があります。


「私の持っている複製は、非常によく出来たものだが、この色の生々しさは写し得ておらず、奇怪な事だが、その為に、絵としては複製の方がよいと、私は見てすぐ感じたのである」

小林秀雄が自身の『実体験』と『美意識』を優先させたこの逸話は、万人の評価を顧みず多くの作品を残した、今回の展覧会の作者たちにも通ずるものがあるのではないかと感じています。


私が今回の作品展で特に感銘を受けたのは、同時代に作られ、時を同じく重要文化財まで評価の上がった、日本画と西洋画を一緒に見ることができた点です。

それぞれに美しさがあり、見方があります。

まるで写真のような西洋画の立体感や色彩感覚、光の捉え方は素晴らしいですが、日本画の一見平面的に見える中に私たちが立体感を感じる感覚も再確認できました。

今回の展覧会はその点でうってつけでした。


私たち日本人は古来、遠近を階層(レイヤー)で捉える感覚があり、それを最も体現したのが日本庭園における「借景」です。

一つの画角にありながら、近景・中景・遠景と階層的に捉えることができる。

この日本人らしい立体感覚が、世界でシリーズ累計5億6千万本以上販売している、世界初横スクロール型アクションテレビゲーム「スーパーマリオブラザーズ」を生んだとすれば、私たち日本人は世界に誇る美的感覚を持っていると言えるでしょう。


ついつい忘れがちではありますが、私たちは先祖から脈々と様々なものを受け継いでいます。

美しいものを眺めながら、そんなことも感じます。

美しさとは多種多様ではありますが、それぞれが「より善くあろう」とした姿でもあります。

子供達にはこれからも美しさに触れながら、理解しようとしたり、共感したりする中で、自分の中に育む美しさを大事にして、多様性の溢れる社会の素晴らしさを感じて、人生を楽しんで生きてほしいと思っています。

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