期待する幸福、満ちる幸福(2025年2月14日掲載)
48歳、4児の子育てをしている父親です。
今月1日、昨年6月に開講した「CMアカデミー沼津」の閉講式が行われました。
このアカデミーでは、誰もが記憶に残る数々の名作CMを手がけている中島信也監督や小野田玄監督から直接アドバイスを受けながら、30秒のCM作品を制作しました。
テーマは「沼津の魅力的な要素を見つけ、その魅力を伝えるCMをつくること」。
著名な監督が講師を務めるだけあって、沼津市外からも多くの参加者が集まりました。
そのため、沼津の魅力が新鮮な視点や感性で豊かに表現され、いつもの風景や何気ない瞬間も、新たな切り口で捉えられ、沼津の魅力をより多彩に伝えるCMが閉講式に揃いました。
完成したCM作品を見て、改めて感じたのはAI技術の進化です。
わずか9カ月前の開講式では、「著作権のある音楽は使用できません」と説明があり、どのようにCMを制作するか悩む場面もありました。
しかし、ふたを開けてみると、参加者それぞれがAIを活用して作曲を行い、自作の音楽を作品に使用していたのです。
中には、歌詞付きの楽曲まで作られたものもありました。
それだけではありません。
AIを使って東海道五十三次の浮世絵を動画化した作品も登場し、こうした技術が無償または低コストで実現できることに驚かされました。
たった9カ月で、ここまで表現の可能性が広がるとは。
AI技術の進化が、映像制作のあり方を大きく変えつつあることを実感しました。
私たちは沼津CMアカデミーの1期生。
閉講式後の打ち上げでは、お互いの作品を讃え合いました。
プライベートの時間とお金を費やし、素晴らしい作品を作り上げた同期たち。
沼津市民として、彼らの情熱と努力に、心から感謝の気持ちが湧きました。
今回、CMアカデミーに参加した動機は単純に「面白そう!」という興味があったからです。
けれど、それだけではありません。
日々気になっていた「アテンションエコノミー」という概念について、何か掴めるのではないかと感じたことも、大きな理由でした。
アテンションエコノミーとは、人々の関心や注目が経済的価値を持つ現象のこと。
「関心経済」や「注意経済」とも呼ばれます。
インターネットの普及による情報過多の時代、人々のクリック数や視聴回数が貨幣的な価値を持つようになり、刺激的で過激な情報ばかりが溢れるようになりました。
人の欲求をあおる情報は、未来への期待を幸福と感じる物質「ドーパミン」を脳内に分泌させ、より刺激の強いものへと人間を駆り立てます。
人の関心をどう引きつけるか?
それを最前線で実践してきたのが、まさにテレビCMです。
この世界に、何かヒントがあるのではないか。そんな思いもあり、CMアカデミーの門を叩きました。
講義の中で、中島監督は「広告の目的は、接した人の心を少しでもプラスに動かし、行動を促すこと」だと語りました。
そのためには、情報を集め、戦略を立て、適切な表現で伝えることが重要であり、それによって生み出されるものこそが広告なのです。
監督はこれを「喜んでもらイズム」と表現し、広告とは人に喜んでもらい、好きになってもらうためのものだと説きます。
そして、広告制作において最も大切なのは、「創造力」ではなく「想像力」だと強調しました。
「想像力」とは、相手の気持ちを思いやること。
広告は自慢話になりがちだからこそ、見る人の心に寄り添い、共感を生むことが大切です。
視聴者の立場に立って考える「想像心」を磨くことは、単なるクリエイティブのスキル向上にとどまらず、人間力を高めることにもつながる。
中島監督の言葉を聞きながら、広告の世界が、私が想像していたものとは大きく違っていたことに気づきました。
そこには単なる商業的な戦略ではなく、人の心を思いやる深い愛がありました。
「もっと!」。
未来志向の期待物質ドーパミンは、さらなる期待を求め、尽きることのない欲望を生み出します。
このドーパミンは、人間にやる気を起こさせ、目標に向かって努力を継続させるために不可欠な物質ですが、ひとつ問題があります。
それは、ドーパミン自体には良心がないということ。
未来への期待を駆り立てるドーパミンに対し、今この瞬間の幸福を感じる役割を担うのが、「セロトニン」や「オキシトシン」といった物質です。
これらは、安心感や愛情、人とのつながりを感じさせるものであり、心を穏やかに保つ働きをします。
しかし、この「未来を期待する幸福」と「今に満ちる幸福」は共存できません。
どちらかが優位に働いているとき、もう一方は抑制される。
未来への期待に駆り立てられているとき、今の幸せに気づきにくくなり、逆に今の充足に浸っているとき、新たな未来を求める力は弱まります。
だからこそ、未来と今、どちらの幸福もバランスよく感じながら生きることが、現代社会に生きる私たちに求められているのではないでしょうか。
今回私たちが制作したCMは、沼津市のホームページに掲載されるなど、広く活用される予定です。
その一端として、私たちのチームが制作したCMをご覧いただけるQRコードをお付けしました。
このCMを通して、皆さまにひとときの幸せを感じていただければ幸いです。
文・写真=飯田理一朗(株式会社トップ・ワークス)



