その人らしさ(2025年11月21日掲載)
49歳、4児の子育てをしている父親です。
10月28日、浮島中学校の1年生を対象に認知症サポーター養成講座を行いました。
今年の春に原中学校で実施した内容と同じ講座でしたが、今回は教室での開催だったこともあり、生徒たちの表情がよく見え、こちらの声も通りやすく、授業を通じて心が触れ合うような温かい時間になりました。
はらデイサービスセンター・鈴木貴勝さんの座学の中で、印象的な言葉がありました。
「認知症は、脳の病気ではありません。」
思わず耳を疑いました。
自分が学んだ頃は“脳の病気”として教わっていたはず。
しかし授業後に調べてみると、現在では風邪と同じように、さまざまな症状の総称である“症候群”と位置付けられていることを知りました。
なるほど、そのほうが誤解も少ない。学問も社会の認識も、時代とともに更新されていくものなのだと、あらためて学ばされました。
11月3日、自社で地域感謝祭を開催し、はら地域包括センターさんに「認知症カフェ」を出店していただきました。
9月の広報ぬまづにも掲載されたVR技術を活用し、認知症の中核症状を一人称で体験する「VR認知症」も実施しました。
『認知症の方は、いま目の前の風景をどう見ているのだろう?』
そう思いながら体験すると、自分が気づかぬうちに、日頃接する認知症の方々と同じ動きをしている瞬間がある。
ふとそれに気づいたとき、胸の奥がじんと温かくなりました。
『そうか、こういう場面では、こんな声かけが必要なのだな。』
66名もの方が体験され、それぞれ思い思いの気づきを得て帰られました。
この体験が、いつか誰かとの関わりの中でふっと思い出され、優しい行動につながる。そう願っています。
11月9日、恩蔵絢子著『脳科学者の母が、認知症になる』を読みました。
私たちのコミュニケーションは、言葉と記憶に大きく依存しています。
では、それらを失うと“その人らしさ”まで消えてしまうのか。
著者は、認知症の母と向き合いながら「人格は変わるのか」を静かに探っていきます。
本書や著者へのインタビューで私が特に心を動かされた場面があります。
母が認知症になってから、著者に念願の大学講師の仕事が決まりました。
しかし、その喜びは母にはなかなか伝わりません。
せつなさを抱えたまま過ぎる日々。
ところが半年ほど経つと、母はいつしか玄関まで見送ってくれるようになります。
「娘はきっと立派な仕事をしているに違いない。」
言葉にならなくても、母の中にそんな確信が芽生えたのだろうと著者は感じます。
ある朝、家を出てしばらく歩いたところで、背後から“カシャッ”と鍵の閉まる音がしました。
その瞬間、著者ははっと気づきます。
見送った直後に鍵を閉めてしまうと、まるで家から追い出したようで嫌だったのだろう。
母は、少し時間を置いてから、そっと鍵を閉めていた。
記憶は薄れても、気遣いは消えない。
言葉が遠のいても、優しさの温度は変わらない。
著者は、その静かな所作の中に“母の本質”をつかまえます。
確かに母は忘れやすくなり、会話も続かなくなった。
がっかりする日も多い。
それでも、母という人の人格そのものは揺らいでいない。
その事実がわかっていれば、言葉が届きにくくても、介護を続ける力になる。
著者はそう語ります。
哲学者カントも晩年は認知症だったそうですが、言葉を交わせずとも周囲から敬愛され、穏やかに幸せな最期を迎えたといいます。
“その人らしさ”は、記憶でも能力でもなく、その人がまとってきた気配や温度に宿るもの。
そして、それを最後まで支えるお手伝いは、私たち周りの者にもできるのだと、あらためて感じました。
11月24日には、春風会さん主催で「注文をまちがえる料理店」発起人・小国士朗さんの講演会が開催されます。
ホールスタッフが認知症の方々。
世界で注目を集めたプロジェクトの根底には、「まぁ、いっか」と受け入れ合う優しさを社会に広げたいという願いがあります。
認知症との共生においても、この“許し合う文化”は欠かせません。
会場はプラサヴェルデ コンベンションホールB、13時半開会(13時開場)です。
参加費は無料で、どなたでも参加できますので、ぜひお気軽に足をお運びください。
そして12月9日には、弊社トップ・ワークスにて「認知症サポーター養成講座」を開催いたします。
認知症を正しく理解し、温かい目で見守る視点を学ぶ内容ですが、はら地域包括センターさんと連携し、「VR認知症」を活用した講座となります。
認知症の方の“感じている世界”を一度体験しておくことは、ご家族・地域・職場における関わりに確かな変化をもたらします。
開催時間は13時半〜15時半、参加費は無料です。
申込・お問い合わせは、フリーダイヤル0120−54−6166 です。
認知症サポーターになることは、特別なことではありません。
地域の一人として、少し理解し、少し優しくなる。
その積み重ねが、まち全体の温度を変えていくのだと思います。
どうぞお気軽にご参加ください。
文・写真=飯田理一朗(株式会社トップ・ワークス)


